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そらとぶフライパン

新人作家のブログです。どうでもいいことばかり書いてます。すみません。

今日は猫の日なので小噺をおひとつ。

自作小説

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この話は、スコットランド境界地方にある小さな町を訪れていたときのものだ。


月が明るい夜、私は宿屋の暖炉の前でブランデーをたしなんでいた。
そこへ宿屋の主人が神妙な面持ちでやって来た。

誇り高き有閑紳士としては、困っている者を放っては置けない。ここはひとつ主人の話をじっくり聞いてやることにした。


「ありがとうございます。ダンナ様。これも神と三位一体の精霊たちのお導きなのでございましょう。

 私がこうして参りましたのは、ダンナ様にお願いしたいことがあるからでございます。

 いえいえ、お代のことではございません。

 お見受けしたところダンナ様はたいそうご立派なお方でいらっしゃいますから、その点に関しては全く心配いたしておりません。

 お願いしたいお話とは、猫のことでございます。

 暖炉のそばにすわっている。はい、左様でございます。灰色の若い猫のことでございます。

 その猫のことで、私どもは困っているのです。

 このようなことを申し上げるのは心苦しいのですが。どうか、この猫と私どものために証人になっていただけないでしょうか?

 じつは、この猫は、猫王朝の一族の生き残り、最期の一匹なのでございます。

 いろいろ訳あって、私と私の妻が王子のお世話をする役目をたまわった次第で。

 悲しいことに、今夜がお迎えが来る、戴冠式の夜なのでございます。

 王子がおっしゃるには、お迎えが来たとき、私と妻は忘れ薬を飲まされるということです。

 自分の子供のように可愛がってお育てしたというのに、私たち夫婦は王子のことを忘れなければならないのです。こんなひどい話があってよいでしょうか。

 そこで、お願いでございます、ダンナ様。

 どこかにお隠れになって、ええ、台所の陰にでも馬小屋の中にでもお好きなところでようございますから。

 王子が猫王国へお立ちになる様子を観察なすって、何もかも忘れてしまった私と妻に、語ってお聞かせくださらないでしょうか。

 後生です、ダンナ様。老い先短い老いぼれを哀れと思ってくださいますのなら、どうか……」

 

 宿屋の主人の話は半信半疑であったが、涙を誘われる話でもあった。願いを快く受け入れることにした。

 私が小説家として名を知られるようになったのは、その後のこと。『エジンバラ・レビュー』誌の誌面に載ったのがきっかけだ。

 あれから何十年たった今でも、宿屋の主人と猫王子には感謝している。

 

(終)

 


ワシントン・アーヴィングの小噺「猫の葬列」を参考にしたのですが、竹取物語になってしまいましたね(^^;)